2018年6月に出版した、小学館新書「やってはいけない歯科治療」は、半年で第4版まで重ねることができました。本書の取材と執筆にご協力していただいた全ての皆様、そして読者の皆様に深く御礼を申し上げます。

新書の出版を契機に、様々なウェブメディアや女性週刊誌にも記事が掲載され、これまでの主な読者層だった中高年男性だけでなく、幅広い方々に歯科治療の問題点を知っていただけるようになりました。
その結果、SNSやメールで、歯科治療のご相談や医療過誤、そして診療現場からの提言から内部告発まで、様々な方々からの情報提供が届いています。
ご連絡いただいた方々には、可能な限り返信するように努めていますが、次のような理由でご要望に添えない場合があります。

まず、ご連絡の中で最も多いのが「歯科医院、歯科医を紹介してほしい」というご要望です。私自身も苦労してきたのでお気持ちは理解できますが、これについては対応できません。
取材させていただいた一部の歯科医院に患者を紹介することは、報道においての中立性や客観性を損なうことになるからです。

毎年のように書店には、「歯科治療の名医」を紹介するMOOK(※1)が並びます。こうしたMOOKは、新聞社系の出版社などが発行していますが、実は掲載されている歯科医院や歯科医の大半が「広告料」を支払っています。(※2)
つまり、「名医」の肩書きはカネで買われており、診療実績や、治療技術の高さ、歯科医の誠実さなどが反映された情報ではありません。むしろ、「集患」(※3)に積極的な歯科医であることを示している、と考えたほうがいいでしょう。
加えて、このような手法で作られたMOOKを、安くはない価格で販売するのは、読者に対する背信行為であり、自らの信用を貶めるものだと私は考えています。

新しい歯科医院を選ぶ時に、優先するものは人によって違います。
「歯科医の専門性」「治療費」「治療期間」「設備の充実度」「受付を含めた対応」etc…
歯科治療の場合は、保険診療だけでなく、自由診療の選択肢が多くあるので、患者の価値観や経済力などによってニーズが、大きく異なるのです。
断言しますが、「全ての人が満足する歯科医」は、存在しません。
そこで、新書や特集記事では、「自分にあった歯科医を見つけるポイント」をお伝えすることにしています。

もう一つご要望にお応えできないのが、「メールによる歯科治療相談」です。
限られた情報だけでは、責任ある回答はできませんし、いわゆるセカンドオピニオンは、歯科医の業務範囲だからです。
ただし、歯科医によるセカンドオピニオンだからと言って、信用できるとは限りません。
例えば、ウェブ上で歯科医たちに、無料で治療の悩みを聞くことができる「歯科相談サイト」があります。
日本最大とされている同サイトの回答を読んでみると、患者に対して決して親身とは言えない内容や、まるで参考にならないものが多く並んでいます。
疑問を感じて調べたところ、同サイトには、回答した歯科医のホームページにアクセス数が増えるシステムが組み込まれていました。
つまり、無料の歯科相談は、歯科医院の「集患」手段だったのです。

診療現場で働く方々からの内部告発には、事件性が高いケースや、医療法に抵触しているケースもあり、継続的な取材の必要性を感じています。
その他、妥当とは言えない歯科治療で多額の費用を取られ、口腔内が崩壊してしまった患者からの訴えも少なくありません。問題なのは、患者が困っても親身になって対応する機関がないことです。
本来であれば、歯科医師会が相談機関を担うべきですが、実際は歯科医側の利益を守ることに終始して、組織ぐるみで患者の主張を退けようとしているケースが目につきます。
裁判は、患者と歯科医の双方にとって経済的にも精神的にも負担が大きく、大半は長い時間がかかります。解決方法としては最終手段ですので、第三者機関の設置などの対策が必要だと思います。

いま、歯科業界のトレンドは「予防歯科」です。確かに「予防」は大事ですが、中高年世代の患者が悩んでいるのは、過去に受けた治療の「予後」だと思います。
数十年経過した銀歯はそのままで大丈夫か?ブリッジのケアとは?歯周病治療を終えた後、どのようにすべきか?
これまでは、治療の繰り返しが口腔内の崩壊を引き起こしていました。歯科業界が、こうした「負の連鎖」を食い止め、歯を残すための道筋を示すまでは、この問題を粘り強く報道していきたいと考えています。

2019年1月3日
ノーザンライツ代表 岩澤倫彦

 


(※1)専門家による医療情報のページは、広告ではない場合がある。

(※2)MOOKとは、雑誌(MAGAZINE)のスタイルで、書籍(BOOK)のようなテーマ性を持った出版物のこと。

(※3)集患とは、多くの患者を来院させるための広告宣伝のこと。医療業界での隠語。