2019年、各製薬会社から医師に渡されたカネが、誰でも簡単に分かるようになった。
これを可能にしたのが、調査報道を行うNGO・ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所が、膨大な情報を基に作成した「マネーデータベース」である。
今月15日に無料で公開され、2日目で45万ビューを記録。医療現場にも大きな衝撃を与えている。
私の元には、がん患者の方々から問い合わせが相次いだ。主治医や知人の医師たちが、製薬会社から多額の報酬を得ていることに驚いたらしい。医療界では暗黙の了解だったと話すと、困惑を隠さなかった。
「マネーデータベース」を作成した一人、医療ガバナンス研究所の尾崎章彦医師。日本中の医師を敵に回すぞ、と周囲から警告されたが、揺るがなかった。製薬会社からのカネが、医師の判断を変えてしまう現実を看過できなかったからだ。
2千円程度の便宜供与を製薬会社から受けただけでも、医師の処方が変わった、という調査結果もある。また、論文のデータ改ざんが判明した、ディオバン事件では、製薬会社から臨床試験を行った京都府立医科大学に2億円の寄付金が渡っていた。
医師にとって、財布の中身は見られてしまうのは歓迎できないはずだが、これだけ問題が起きている状況では、情報の透明化は必然だ。
ある医師のSNSでは、「マネーデータベース」で検索した報酬の画像を貼り付けて、揶揄するコメントを加えた患者らしき人物がいた。
第三者からみると、短絡的で的外れな行為にしか見えない。
なぜなら、その医師は極めて正当な診療をしているし、報酬を受けてた製薬会社に有利な発言も一切していないからだ。また自身のSNSで、報酬は高額な医療雑誌の購読などに使用していることを明かしている。
患者が「マネーデータベース」の情報を見るとき、報酬額の多寡に目が行きがちだ。むろん社会常識を超えた金額を得ている場合は、医師に説明責任があると思う。
最も大切なのは、医師の処方や普段の発言が報酬に影響されているかを冷静に判断することではないだろうか。
例えば、特定の新薬だけを医師から熱心に勧められた場合、この「マネーデータベース」を使えば、製薬会社との関係性が見えてくる。
注意したいのは、公立病院の医師であっても、製薬会社から原稿の執筆料、コンサルタント料、講演料などの名目で報酬を得ること自体は禁止されていないこと。(※届出義務あり)
また、大学教授の中には、報酬を研究室の運営に使用している人もいる。
こうしてみると、「マネーデータベース」は、パンドラの箱のようだ。使い方次第では、不信感しか残らない。希望を残す方法があるとすれは、医師による納得のいく説明と、製薬会社に影響されない診療姿勢だと思う。
医療ガバナンス研究所 <Vol.012 製薬企業から医師への謝金、一般無料公開始めました>