マネーデータベースが教えてくれた、緩和ケア医の矜持
診察室から、豪快な笑い声が聞こえてきた。ここを訪れるのは、深刻な状況のがん患者のはず。それなのに、なぜ愉快に笑えるのか……許可をもらって診察室の中に入ってみると、眼光が鋭い白髪の男性がいた。二週間に一度の外来で、ゆっくりと進行していく自分の病状を笑いとばす。それが平野治行さんという人だった。 2014年、私のチームは、緩和ケア診療所「いっぽ」と萬田緑平医師(現・萬田診療所)を中 […]
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診察室から、豪快な笑い声が聞こえてきた。ここを訪れるのは、深刻な状況のがん患者のはず。それなのに、なぜ愉快に笑えるのか……許可をもらって診察室の中に入ってみると、眼光が鋭い白髪の男性がいた。二週間に一度の外来で、ゆっくりと進行していく自分の病状を笑いとばす。それが平野治行さんという人だった。 2014年、私のチームは、緩和ケア診療所「いっぽ」と萬田緑平医師(現・萬田診療所)を中 […]
「こちらで対応する患者さんではないはずです。もう一度、しっかりご家族に話してください!」 救命救急センターの医師が、電話を叩きつけるように切った。 抑えきれないほどに、医師の気持ちが高ぶっていたのには、理由があった。 搬送依頼があったのは、これまで何度も運ばれてきた、在宅の末期がん患者。 その患者本人は、延命治療の拒否を書面で示していた。 医療現場で […]
VOL.3 最後まで仕事を続けるという選択 <出会い> 2014年9月、緩和ケア診療所いっぽの密着取材を開始した初日に出会ったのが、平野治行さんだった。 73歳にして現役の設計士。ほがらかな笑い声、強い光を放つ眼、才知溢れる会話。大腸がんステージ4を抱えている患者とは、思えないほど活力がみなぎっていた。 その奥深い人間性に惹かれ、16回にわたって、仕事現場から、自宅で最後の時 […]
医師で僧侶の田中雅博さんが、すい臓がん末期となり、NHKのスタッフに密着取材を許可するところから番組は始まる。田中さんは明確にDNAR(延命治療の中止、または拒否)の意向を示し、セデーション(鎮静処置)を希望していた。 だが、医師の妻は徹底して延命をはかる。「私を眠らせてほしい」とはっきり言う田中さんに対して「薬を使わないのは、あなたが最期だと思っていないからだよ」と受け入れな […]
VOL.2・二千キロの旅に出た家族 「苦しい道と楽な道を選ぶなら、苦しい道を選択して、その様にすれば努力の実は成る」 抗がん剤の副作用で痺れる手にボールペンを握り、何度も書き直したこの一文は、会社を引き継ぐ次男に向けて贈られたメッセージだった。 松野徹也さんは昭和21年生まれ。30歳の時に機械設計会社を裸一貫で、群馬県高崎市に立ち上げ、業界で信頼される存在に育て上げた。 6 […]
VOL.1 神様がくれた家族の時間 「友達を連れてこられる家に住みたい、と娘に言われてね。よし、大きい家を建てようと、毎日4時間しか眠らないで働いたのさ。二人の娘はしっかり育ったし、母ちゃん優しいし、満足しているよ」 森下勝博さん(1949年生・伊勢崎市)は、亡くなる1週間前に、自分の人生を振り返ってこう話してくれた。自宅を新築したのを契機に、勝博さんは深夜帯の運送業務に就き、 […]
今日9月16日発売の週刊ポストに、緩和ケアをテーマにした特集記事を書きました。これは三年越しで取材している、緩和ケア診療所いっぽの密着ドキュメンタリーの予告版として発表したものです。 完治の可能性が低いステージ4のがん患者にとって、抗がん剤治療は、命を大きく左右する大きな問題です。治療を受けるか否か、どこまで継続するか中止するか、自己決定権が尊重される以上、その結果は自身が引き […]
「緩和ケアは、終末期になってからお世話になるものと思っていました」 轟哲也さんは、こんな言葉から自分の率直な思いを語り始めた。2016年7月16日、聖路加国際病院の市民講座で、彼は妻・浩美さんと共に、進行がんの闘病に緩和ケアがなぜ必要なのか、当事者の立場から伝えている。 一時期、とても険悪な状態に陥ってしまった轟夫妻を救ったのは、聖路加国際病院の緩和ケア医・林章敏先生だった。緩 […]
取材中には、思わぬ瞬間が訪れる時がある。 王様のような顔をした猫が、いつの間にか私の背後にいた。 彼がじっと見つめているのは、デジタル一眼カメラGH4のモニター画面。 そこに写っていたのは、末期がん患者の飼い主だった─ これは、群馬県の緩和ケア診療所「いっぽ」の訪問看護に同行取材した際の一コマ。 この患者は、自宅で猫たちに囲まれて一人暮らしをしていた。 がんの種類 […]
昨日、聖路加国際病院・日野原記念ホールでの講演後、轟哲也さんはロビーに移動するとソファに崩れるように横たわった。体力的には限界に達していたのは明らかで、すぐに主治医でもある 林章敏先生がバイタルチェックをしていた。無理を押してまで、哲也さんが伝えたかったこと、それは、がん患者と家族が実感した緩和ケアの存在意義であり、未だに残る誤解を解くためだったと思う。 &nbs […]
スキルス胃がん患者・家族の会を立ち上げた、轟哲也さん、浩美さん夫妻が、今日午後に聖路加国際病院で、緩和ケアをテーマに講演をした。轟哲也さんは、かなり体調が悪化して、辛い表情をしている時間が長くなったが、この日に向けて自分を奮い立たせていたようだった。自分の体験を少しでも多くの人に知ってもらい、進行がん治療の厳しさを和らげてもらいたいという、利他的な心が哲也さんの身体を動かしてい […]
スキルス胃がん患者・家族会の「希望の会」を設立した、轟哲也さん。希少がん、難治性がんである「スキルス胃がん」は、治療法が確立されているとは言い難く、情報を集めるにも大きな苦労をしてきた。進行が早いスキルス胃がんの不安と、どのように対峙してきたのか、自身の経験を踏まえて語った。 スキルス胃がん患者・家族会「希望の会」HP 「緩和ケア診療所いっぽ」生き抜いた3人の男たちと家族の […]