インプラントは毒にも薬にもなる

歯科医・小宮山彌太郎氏が、集まった若者たちに伝えようとしたのは、歯科医としての「哲学」。 インプラント治療を日本に導入した先駆者であり、現在も臨床の第一線でインプラント手術を行うレジェンドとして、日本中の歯科医から尊敬を集めている人だ。

小宮山彌太郎先生
小宮山彌太郎先生のセミナー「B-フィロソフィー」(C)M.IWASAWA

その小宮山氏が憂いているのは、歯科業界に起きているモラルハザードである。
「B-フィロソフィー」と題した若手歯科医や歯科医衛生士を対象にしたセミナーでは、インプラントを上顎洞(頬骨の裏側にある空洞のこと)に落としたまま、患者に伝えない歯科医のケースが紹介された。

こうした他院でのトラブルを、小宮山氏が対応することが増えているのだという。
インプラントは全て自費診療なので、治療費は1本あたり30万円から50万に設定しているクリニックが多い。その為、技術も経験もない歯科医が、我先にとインプラントを始めて、トラブルが多発した。
例えば、下顎のインプラント手術が失敗すると、神経損傷を起こすケースがあり、そうなると一生麻痺が残るという。

だが、一方で、インプラントによって「しっかり噛める」というメリットは大きい。
高齢者の場合、入れ歯になると固いものが噛めなくなり、同居する家族と一緒に食事ができずに「孤食」を余儀なくされるが、インプラントがこれを防ぐ効果もある。
こうした事実を伝えず、ネガティブなイメージばかり報道するのは、患者にとってもマイナスだと感じて、私は小宮山氏の取材をさせていただいている。

小宮山彌太郎先生
インプラントの周囲の骨が、吸収(消失)するなどのケースが増えている(C)M.IWASAWA

また、最近ではインプラントを入れた周囲の骨が、吸収(消失)するなどのケースが増加傾向にある。
これについて小宮山氏は、インプラントの表面加工や硬さの変更に原因があると示唆した。

インプラントが顎の骨と結合することを、オッセオインテグレーションと呼ぶ。
従来は、数ヶ月かけてオッセオインテグレーションさせたが、その期間をより短く、より確実にする為、表面を「粗く加工」するようになった。 また、インプラントの素材はチタンだが、壊れないように従来よりも硬くなっており、ジルコニア製(チタンよりも硬い)まで発売されている。

一見すると、これは技術革新のように見えるかもしれない。
しかし「粗く加工」したことで、一度感染が起きると、インプラント周囲炎が一気に進行するようになった。 また、硬いインプラントによって、噛み合わせの時に強い負荷がかかり、骨吸収を促進するという皮肉な結果を招いている。

小宮山彌太郎先生のインプラントオペ
インプラントオペの様子。(C)M.IWASAWA

「短期的に見れば、早く確実にインプラントがつき、壊れない方が良いと思うかもしれない。
だが、患者にとっては、長くインプラントを使用できることの方が大切です。
誰のための歯科治療なのか、それをあなた方には考えていただきたい」

小宮山氏が、こうして若手に哲学を説くのは、誇り高き歯科医としての矜持だと感じた。 私の著書でも、その哲学の真髄をお伝えしたいと考えている。

ちなみに「B-フィロソフィー」のBとは、次のことから名付けられたという。

Benefit(インプラントは毒にも薬にもなる、誰のための治療か)
Blood(血液の存在が治療の上で最も重要)
Brånemark(オッセオインテグレーションの原理を発見、インプラント治療を確立した、スウェーデンのブローネマルク教授、小宮山氏は直弟子)

6月11日取材より