薬害再発防止に向けた取り組み

2008年に薬害C型肝炎訴訟は、国、製薬会社と和解して、被害者救済の枠組み等について基本合意した。ただし、和解から10年が経過しても、まだ約束が果たされずにいるのが、「薬害再発防止」に向けた取り組みである。
原告団や弁護団が求めているのは、薬害の被害者、医療者、弁護士などで構成された、第三者組織の設置だ。

これまで、医療問題の検討会議といえば、厚労省側が、医療者や消費者団体、メディア関係者などを人選している。これは取材していると、バカバカしくなるくらい、形式的なものが大半で、厚労省官僚が予め描いた議論の流れや結論までのシナリオ通りに進行する。
ごく稀に気骨ある医療者が、厚労省の思惑と反する発言をしたり、官僚が業界団体の意向を無視して改革を進める場合もあった。

しかし、気骨ある医療者は委員を再任されず降ろされ、改革を進めた官僚は異動させられる。改革の芽は、志半ばで刈り取られてしまうのだ。
だから、検討会議のような組織は、厚労省からの独立性が重要であり、原告団は「第三者組織」の設置にこだわってきた。

山口美智子さんは、この運動を全力で牽引してきた
山口美智子さんは、この運動を全力で牽引してきた(C)M.IWASAWA

薬害C型肝炎訴訟の原告団が、ご自分たちの仕事や家庭を犠牲にしてまで、和解から10年経っても活動を続けている。その理由は「自分たちと同じような経験はしてほしくない」という利他的な信念だけだ。
もちろん何も見返りはないし、イデオロギーなども全く関係ない。
政治家たちの薄っぺらい言葉とは違い、行動によって裏付けされている。

病床から、被害の救済を訴えた玲子さん
病床から、被害の救済を訴えた玲子さん(C)M.IWASAWA

薬害C型肝炎や集団予防接種のB型肝炎訴訟、イレッサ訴訟などの取材をしてきた者としては、「薬害」とは一体何を指すのか?という定義を明確にすべきだと考えている。
医薬品の副作用をすべて「薬害」という記号に置き換えることは、賛成できない。

「被害の拡大を防ぐことが可能だったのに、対策を講じない」事を指すのか?
「有効性よりも副作用によるデメリットが上回る」事を指すのか?
「裁判になった事例」を指すのか?
実に曖昧模糊としたまま、「薬害」という言葉のイメージが独り歩きしている。

東京原告団の代表を務める、浅倉美津子さん
東京原告団の代表を務める、浅倉美津子さん(C)M.IWASAWA

現在、HPVワクチンをめぐり、擁護派と否定派の間で、中傷合戦ともいうべき事態になっているが、被害の当事者である少女たちが置き去りにされてはいないだろうか。
副作用(もしくは副反応)とワクチンの因果関係については、まだ不明確な点も多いし、専門家の間で意見が分かれている。
こうした医学的な議論とは別に、HPVワクチン接種が契機となって起きた身体の異変である以上、社会全体で少女たちの健康回復を支援すべきだし、それが大人たちの責務だ。
裁判は、結論を得るまでに長い時間がかかり、原告と被告が敵対関係になるため、別の枠組みが必要だと思う。
原告たちが求めている「第三者委員会」の存在意義は、まさにここにある。

「薬害とは何か?」

国民全体で認識を共有することが、理不尽な被害の再発防止に必要な第一歩だ。