がん免疫細胞療法の勉強会で伝えた 「騙しの手口」と「患者を孤立させないこと」

がん患者会シャローム勉強会
がん患者会シャローム(代表:植村めぐみさん)の勉強会。(C)M.IWASAWA

9月29日、埼玉に拠点を置く、がん患者会シャロームさんの勉強会で、お話をする機会をいただいた。
テーマは「がん免疫細胞療法・白衣の詐欺師」。
約60人の参加者は、基本的に会員限定だったので、「がん免疫細胞療法の何が問題なのか」「患者を信用させる巧妙な騙しの手口」などを、潜入取材の映像や、実際のクリニックなど具体名を挙げてお伝えした。

  会場には、免疫細胞療法に誘導された経験を持つ人や、友人が治療を受けた人もいて、拙い私の話を身を乗り出してお聞き下さった。
やはり、免疫細胞療法は、がん患者にとって身近で、切実な問題となっている。

  この日、改めて思ったのは、がん患者を孤立させてはいけない、ということだ。 がん治療をめぐる真偽が定かではない情報が飛び交っているが、その背後には免疫細胞療法や、根拠なき代替療法に誘導して、金儲けを企んでいる人間が存在している。
その罠に落ちるのは、決して愚かな患者ではない。

意外にも、教養レベルが高い人、ある程度ネットに精通している人、メディアリテラシーが高い人であっても、「罠」に落ちていた。
なぜなら、騙す側は、がん患者の思考回路などを徹底的に研究して「ツボ」を押さえ、本来の核心部分である「有効性の虚実」をゴマかすために、教養ある人だからこそ信じる事実や権威を巧妙に散りばめているからだ。

さらに、命の危機が迫り、焦燥感に駆られている患者にとって、最も欲しい情報は「希望」だ。
非常事態にそれは「真実」よりも優ってしまう。
人間は見たいものを見て、欲しい情報だけを、無意識に選ぶ。

こうした状況において、拠り所になるのが「患者会」の存在だと思う。
患者や家族だけで、隠された嘘を見抜くのは、決して容易いことではないが、同じ病を抱えている患者同士なら、本当の意味で親身になって考え、情報を共有できる。
このシャロームをはじめとする、がん患者会は、親身になって患者や家族の思いに寄り添い、治療に関する助言をしている。

しかし、「騙す側」もここに目をつけていた。
すでに、複数の免疫クリニックが「フェイク患者会」という「罠」を作っているのだ。
これまで病院が場を提供する患者会は存在するが、こうしたフェイク患者会は、当の免疫細胞療法クリニックの存在を巧みに隠しているので、関係性がすぐには分からない。

  そこで、免疫クリニック「騙しの手口」について、勉強会で紹介したスライドから一部を抜粋してご紹介したい。
なお、ここでご紹介する画像などは「報道引用」なので、著作権侵害には当たらないことをお断りしておく。

<騙しの手口1 症例画像のトリック>

撮影された位置をわずかに変えれば、がんが消滅したり縮小したように見せかけることもできるという。(C)M.IWASAWA

これは週刊ポストでもご紹介したが、各免疫クリニックのホームページやパンフレットには、「こんなに免疫療法が効いた」という根拠として「使用前・使用後」の症例画像を必ずと言っていいほど掲載している。
だが、紹介した画像をよく見ると、CTの撮影位置が異なっているのだ。
CTは身体を「輪切り=スライス」して撮影するので、位置が異なれば、がんの大きさも異なって見えるのは当たり前。
この他、画像処理がされたり、日本医大・勝俣教授が記録しているものでは、症例自体が虚偽の記載がされていた。

<騙しの手口2 大手出版社から本をだす>

免疫クリニックの多くが本を出しているが、中でも目立つのが「幻冬社メディアコンサルティング(以下、MC )」からの出版。
  幻冬社の企業出版【幻冬社メディアコンサルティング】
この「幻冬社MC」は、企業向け自費出版であり、有名作家の本を出している「幻冬社」ブランドを利用した、出版業界の新たなビジネスモデルなのだ。
これは、出版社がモラルを捨てた結果、免疫クリニックと共犯関係になったと言えるだろう。

<騙しの手口3 フェイク患者会>

免疫の力でがんを治す患者の会
言葉巧みに免疫細胞療法へと誘い込む、フェイクがん患者会。(C)M.IWASAWA

2016年9月に設立された、坂口力・元厚労相が会長を務める「免疫の力でがんを治す患者の会」。
坂口氏は、大腸がんを患って、再発予防のために瀬田クリニックで免疫細胞療法を受けて以降、テレビや雑誌で、瀬田クリニックの広告塔の役割を果たしている。
さらには瀬田クリニックなどの細胞培養を手がける、株式会社メディネットの最高顧問に就任。ちなみに、同患者の会の事務局は、一般社団法人日本免疫治療学研究会と同じマンションの一室にある。
残念なのは、金沢赤十字病院の元副院長で「ゲンちゃん先生」の愛称で親しまれた西村元一医師さえも、このフェイク患者会の客寄せに利用されていたことだ。
西村先生は、患者同士の交流の場を設立するなど、自身がステージ4の胃がんとなって、医師と患者の両方の視点で尽力された方だ。
西村先生は、母校の金沢大学内にある金沢先進医学センター(実質的には瀬田クリニック)で、免疫細胞療法を受けたが、今年5月に亡くなった。

  先日も、がん患者の支援団体を装った、がん予防サポートセンター」という団体のサイトが妙な記事を掲載していたが、フュージョン細胞なる免疫療法クリニックとの関係性を指摘したところ(ネットで暗躍する免疫療法クリニックの正体(9/28))、その団体のサイトは翌日に閉鎖された。 このようなフェイク患者会が、何を目的にしているのかは、火を見るより明らかだろう。
何より、純粋に患者同士の支え合いを目的に活動している方々を冒涜する行為に、怒りを禁じ得ない。

<免疫クリニック 5つの特徴>

1「すべて、自由診療」
2「治療費が非常に高額」
3「有効性が臨床試験で立証されたものはない」
4「驚異的な効果を症例画像、患者の体験談でアピール」
5「抗がん剤との併用を勧める」

  1クール400万円を、一括前払いで要求するクリニックもある。
その院長は「1クール×ステージ」と患者や家族に公言していた。
そんな大雑把な話があるだろうか。 切実な患者の足元を見るような言動は、許されるものではない。

  「抗がん剤と併用」することで、永久に免疫細胞療法の有効性は闇のままだが、 「効く可能性がある」状態の方が、「効かない」と判明するより、免疫クリニックにとっては好都合だろう。

<乱立する免疫細胞療法>

乱立する免疫細胞療法
検索すると、多くの免疫細胞療法が行われていることが分かる。(C)M.IWASAWA

私たち取材チームで調べたところ、様々なネーミングをつけた免疫細胞療法は、少なくても32種類以上も存在していることが分かっている。
勉強会では、これを見た参加者からこんな質問が飛び出した。

「免疫、という言葉が入っていないものもあるようなので、見分ける方法を教えてほしい」

確かに、よく考えついたなと感心するほど、種々雑多なカタカナ用語が入り乱れている。

「最近は、治療名に免疫の2文字がないものもありますが、民間のクリニックで、がんを免疫の力で治すという説明があったら全て疑ってください」
私はこのように回答した。

今年になって、免疫クリニックの問題が、相次いで報道されるようになり、その時に「玉石混淆」という言葉を使っている人が多いが、これは間違いだ。
日本の免疫細胞療法で有効性が臨床試験で証明されたものは一つもないのに、高額な治療費をがん患者から取っている。
規模の大小こそあれ、免疫クリニックは全て「石」であり、「モラルを失った白衣の詐欺師」だ。

<注意すべきポイント>

免疫療法の注意すべきポイント
自由診療クリニックだけではなく、保険診療のクリニックや大学病院などでも行われており、注意が必要だ。(C)M.IWASAWA

今、免疫細胞療法を実施しているのは、全国で400以上。
それは民間の自由診療クリニックだけではない。
最近では、一般の総合病院や、保険診療のクリニックでも、免疫細胞療法に手を出しているのだ。
混合診療が判明すると、保険医の指定が取り消されるので、同じ病院内に「○○研究所」のような別団体を作っているケースが多い。
今日、NHKが報道していたが、がん拠点病院でも免疫細胞療法を実施しているのが、倫理的に許されるものではない。
紛らわしいのだが、免疫細胞療法の可能性を純粋に探っている研究者も一部に存在している。
その場合、正式な臨床試験として行なっているのだが、患者には違いがとても分かりづらい。
これは、国立がん研究センター・情報サービスの情報発信が不十分であることにも起因している。

私が、免疫細胞療法や緩和ケアの取材を始めたのは、2013年夏に行われたリレーフォーライフで、シャロームの代表・植村めぐみさんとの出逢いがあったからだ。
そこで、免疫療法の問題を糾弾している日医大の勝俣教授、そして緩和ケアの萬田 緑平医師との交流が始まり、現在に至る。

  現時点で、免疫細胞療法は実験的な段階であり、第三者の監視や検証が可能な臨床試験でのみ許される医療だ。
20年以上も前から、有効性が立証されていないのは、そもそも有効性がないか、関係者が基本的な責任を果たす気がなかったことを示している。
免疫細胞療法は、決して最後の拠り所でも、希望でもないことを知ってほしい。