緩和ケア、そして利他的な精神について

体調悪化の中、緩和ケアについて自分の体験を伝える轟哲也さん。傍らでは、妻の浩美さんが見守る。(C)M.IWASAWA

スキルス胃がん患者・家族の会を立ち上げた、轟哲也さん、浩美さん夫妻が、今日午後に聖路加国際病院で、緩和ケアをテーマに講演をした。
轟哲也さんは、かなり体調が悪化して、辛い表情をしている時間が長くなったが、この日に向けて自分を奮い立たせていたようだった。
自分の体験を少しでも多くの人に知ってもらい、進行がん治療の厳しさを和らげてもらいたいという、利他的な心が哲也さんの身体を動かしているのだと思う。

今も緩和ケアは、治療手段が無くなった人の終着駅だというイメージが払拭されていない。
今日の講演でお二人は、がんの闘病で崩壊した家族の関係を救ってくれたのは、緩和ケアの主治医・ 林章敏氏の存在だったと語った。

 緩和ケアは、がんによる痛みを「緩和」するのが最重要課題だと、多くの人は思っているし、そして私もそうだったが、実は違う。
3年前から、緩和ケア診療所いっぽ(群馬県高崎市)を取材をさせていただいており、当初は進行がんの痛みをどのように和らげるのか、という部分に関心が向いていた。
しかし、いっぽの医師と看護師が一丸となって、患者と家族の「心」を支えている場面に立会い、自分の視点が既成概念に囚われていたと気づいた。
いっぽの皆さんもまた、取材によって緩和ケアの意義を広めたい、という利他的な気持ちで協力してくれている。

轟さん夫妻の真実の重みが、多くの人の心を揺さぶり、がん医療を変えていく種撒きになることを願い、私なりにこれからもお二人の志を伝えていこうと思う。