こんなに危ない「ネットで歯医者選び」(週刊ポスト7月13日号)

新書「やってはいけない歯科治療」のスピンオフ企画・番外編は、インターネットを使った歯医者選びに待ち受ける「罠」について、書かせていただいた。

週刊ポスト「こんなに危ないネットで歯医者選び」(C)M.IWASAWA

「患者の意向も聞かず、勝手に治療を進められた」
「説明を求めたら、歯医者が露骨に不機嫌になった」
「何度通っても症状が改善せず、結局は抜歯された」

歯医者通いで悩む中高年世代にとっての「あるある話」、患者の対応策としては、せいぜい歯医者を変えるしかない。だが、インターネットで歯医者を探すのはとても難しいというのが、私の実感だ。

「そんなことないさ、簡単だよ。ネットに地域名、受けたい治療内容などを入力すれば、歯医者がたくさん出てくるじゃない」
もし、こう思っている方は、ぜひこの記事をご一読頂きたい。

ネットの医療情報には、巧妙なステマが多くて、気づかないうちに「罠」にハマってしまうことがあるからだ。
例えば、一部の「歯科医院の予約サイト」と連動した「口コミ」には、注意が必要なものがある。
多くのヤラセ、サクラが紛れ込んでいるからだ。これを見破るコツは記事で詳しくご紹介している。

許せないのは、こうした「口コミ」によって、過去にトラブルを起こした悪質な歯科医が、簡単に「良い歯医者」に偽装できることだ。
今年、患者の歯を勝手に削ったとして逮捕された歯医者も、この手口を使っていた。

「口コミを見て安心して受診した」と話す患者の一人は、後に別の歯科医院で診察を受けたところ、本来は削る必要はなかった歯を7本も削られていたことが分かったそうだ。
この口コミを運営する予約サイトは、事件発覚後に逮捕された歯医者の情報を消去して、何食わぬ顔で営業を続けている。

もう一つ、注意が必要なのは、無料の「治療のQ&Aサイト」。
これは、歯科治療で悩みを抱えた患者が、公開掲示板で歯医者や歯科衛生士に無料でセカンドピニオンを受けられる、というのが売り。
「宣伝目的の情報はもういらない 本当のことを伝えたい」
こう掲げる「Q&Aサイト」は、一見すると親身な歯医者の回答がもらえるとあって、利用する患者は少なくない。

ただし、この「Q&Aサイト」は、一部の契約した歯医者に対して有料のサービスが提供されている。
相談に回答するたびに、その内容が歯医者のホームページに組み込まれ、自動的にSEO対策が施される、というものだ。
回答者(歯医者)の一人は、Q&Aサイトや自身のホームページ上で「◯◯◯◯◯◯で解決しない場合は、気軽にお越し下さい」と記していた。

先月に施行された改正医療法は、「患者の体験談」を広告として使用することを禁じている。
このケースについて、厚労省医政局の担当者に聞いてみた。
「治療のQ&Aは、患者の体験談とみなされる。それを歯医者のホームページに掲載しているなら、完全にアウト」

これまでインターネットは、医療法の規制対象外だったので、ステマの横行や、チャンピオンケース(特別な成功例)だけを掲げて患者を自分の医院に誘引するケースが多く、トラブルが多発していた。
そこで厚労省は、インターネットの医療広告について厳しい規制をかける方針に転じた。

この「Q&Aサイト」を運営する業者(歯医者の資格を持つ人物)に対して、改正医療法違反の可能性について見解を質したところ、次のような回答があった。

「歯科相談の組み込みシステムについては、すでに先月より廃止の方向で進めております。廃止にあたってホームページの改修が必要となりますので多少時間がかかりますが、7月中には全導入医院で廃止の予定です」(中略)
「また、◯◯◯◯◯◯の相談室は参加歯科医院からも相談者からも一切費用を頂いておりませんので、広告には当たらないかと思います」※回答から一部抜粋

業者は「Q&Aサイト」で歯医者が無料で回答していることを理由に、広告ではないと主張しているが、実態の運用をみれば、患者を誘引する有料サービスとなっている。
巧妙な「ステマ」の一種というべきだろう。

根拠のない戯言に惑わされてはいけない(C)M.IWASAWA

「Q&A」の常連回答者の一人である歯医者は、自院のホームページでこんなことを書いている。(掲載画像の赤枠内)
「歯周病・歯槽膿漏の治療は、心筋梗塞や脳梗塞やすい臓がんなど、全身の大きな病気を予防することもできます」

歯周病が「すい臓がん」を予防できるという科学的な根拠は、何もないので、全くのデタラメである。
また、歯周病と心疾患等との因果関係についての信頼できる研究はあるが、だからと言って、歯周病治療で心筋梗塞や脳梗塞を予防できる、という表現は大きな誤解を与えるだろう。

厚労省の担当官が漏らした言葉が、印象的だった。
「改正医療法の内容は、かなり以前から告知していましたが、違反しているケースが多いです。特に、歯科はひどいですね」

文責:岩澤倫彦(2018年7月2日)

歯医者のタブー・ネットで歯医者選びの罠 【週刊ポスト 2018.7.13号】
>ネットで歯医者選びの落とし穴 検索上位対策、ステマも存在
>口コミサイトでの歯医者選び 不自然な評価の見分け方