銀歯治療を続ける理由は、果たしてあるのか?

時代遅れな銀歯治療、先端的な「レジン治療」が日本で進まぬ理由(女性セブン1月17日・24日号)

女性セブンの新年号に掲載されている「海外ではやっていない日本の治療」。
銀歯治療について、私がコメントした全文がウェブ版で配信されました。
よろしければご一読下さい。

虫歯の治療では、失われた歯の部分が小さい場合は部分的に「銀歯」を嵌め込む「インレー」、欠損部分が大きい場合はすっぽり被せる「クラウン」という手法が使われます。
虫歯部分が小さいと「インレー」を組み込むために健康な部分も大きく削る必要があります。嵌め込む銀歯が小さい外れやすい、強度が劣るという理由からです。
でも、健康な歯を大きく削ることによって、歯の寿命そのものを縮めてしまいます。
日本では「銀歯」の治療が長く主流を占めていましたが、先進国の中で「銀歯」が多用されているのは日本くらいです。

歯科先進国と言われるスウェーデンの虫歯治療は「コンポジット・レジン」が基本。「柔らかいペースト状のプラスチック系素材のレジン」は、歯の健康な部分を余計に削る必要がありません。
「レジン」の技術を発展させたのは、日本の歯科材料メーカーと言われています。それなのに、日本では銀歯治療が主流だった理由は「保険の診療報酬」にありました。
平成30年の診療報酬をみると、「インレー」に銀歯(※1)を使用すると「608点」。
一方のレジンでは「196点」。
同じ虫歯治療でも、3倍の開きがあるのです。

実際の治療では、この他に銀歯を組み込むために歯を削り、銀歯の型を取るなどの工程が必要ですし、歯の状態によっても変わってきます。
そこで保険診療を中心にしている歯科医に、インレーを想定した診療報酬額(収益)の一例を出してもらうと、次の金額になりました。歯科医院の収益は、診療報酬の点数に「10」をかけた金額です。

銀歯 「約9,000円」

レジン「約3,500円」

この金額は、歯科医院の収益額であり、患者の自己負担額は保険の種類によって異なります。(国民健康保険なら3割)

銀歯の製作は、外部の歯科技工士が担当するケースが大半です。
旧厚生省は、大臣告示で銀歯の製作費用の割合を「歯科技工士7:歯科医3」と示しました。しかし、銀歯を発注する側の歯科医の多くが、大臣告示を無視。技工士に対して費用を値切り、「差益」を得ることが慣例化していたのです。

近年、銀歯に使用しているレアメタルの「パラジウム」が、世界的に高騰。「銀歯」は、高価な材料になりました。これに伴い、銀歯治療の件数も急速に減少しています。
厚労省によると、平成29年6月分では、「インレー」の銀歯は「827,307件」、レジンは「7,713,944件」。
「銀歯1対レジン9」となり、ようやく日本でも「インレー」はレジンが主流となりました。それでも、1ヶ月あたり82万件以上が使用されている「インレー」銀歯は、早急にレジンに切り替えていくべきでしょう。(※2)

また、レジン治療は歯科医の技術力と誠実さが如実に反映されます。治療する部分以外をラバーダムというシートで覆うこと、レジンの充填を何度も分けるなど、丁寧な手順と相応の時間が必要です。
取材したレジン治療の第一人者と言われる歯科医は、一本あたり約30分の診療時間をかけていました。

スウェーデンで診療している日本人の歯科医によると、保険でインレー程度のレジン治療を行なった場合の費用は「約14,000円」。日本より4倍も高いのです。
治療費を比較して「安い日本の方が良い」とは必ずしも言えません。
なぜなら、保険の診療報酬が低く設定されていることに、大半の歯科医は疑問(不満?)を抱いているからです。
もちろん丁寧な治療をする誠実な歯科医もいますが、あまりに安い報酬は「手抜き」の原因となっています。
「レジンの方が利益が上がる」という歯科医は、「手抜き」をして、限られた時間で多くの患者をこなしている、とも考えられます。

これからは、中高年世代の「過去に受けた銀歯治療」が大きな課題となってくるはずです。
その時に必要なのは、正しい知識に基づいた「患者の判断力」だと私は思います。

(※1)「銀歯」と言われる「金銀パラジウム合金」の場合
(※2)「クラウン」には、銀歯を用いる方が妥当、と日本では考えられています。ただし、スウェーデンでは欠損部分が大きい場合でも、レジンを選択しているそうです。

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